【review・12】


HANA-BI


(言わぬが花)
(98.4.19)


少し遅くなりましたが北野武最新作です。まずはベネチアグランプリおめでとうございます。ま、賞取らなくても僕には充分ですが。「その男凶暴につき」以来、僕にとって絶対見逃せない数少ない映画監督の一人だった武さん。
武映画だけは「周りのどんな評価」も関係無く僕個人にとって、まさに「魂に来る」映画です。口では到底表現できない(言葉にしたとたんに逃げていく)「ある種の感情」を見事に表現している。
「言わぬが花」。これが武映画の最大の魅力でしょう。
ま、そんなことは色んな評論家さんが語っていることだけど。「過激な沈黙」とかね。で、僕がとにかく感動するのは、その過激な沈黙や大胆な構図、乾いた暴力、無造作なカット割りなど、様々な表現が「ヌーベルバーグ的」なんて言われながらも、全くそれらと関係なく立ち表れているところです。つまり「映画芸術運動としてのヌーベルバーグ」が「従来の映画表現の破壊」から創造を始めたのと違い、武さんの映画にはそのような「知的観念」が感じられないのです。「自分の生理をそのまま」撮ったら「こうなっちゃった」というのが本当のところでしょう。「そのまま」なんてことさえ考えないで撮ったと思うけど。
「センス」を越えた表現。
以前、画家の横尾忠則さんのTV取材をしていたときにこんなことを言っました。
「若いアーチストがセンスだけで時代にのっかるのは良くあるけど、センスだけの人っていつか消えちゃうんだよね。センスを持ちつつ、それを越えるものを持たないと」
横尾さん自身も昔「時代にもてはやされた」アーチストであったけど、やはり今は「センスを越えた表現」を持っている画家だと思います。簡単に言えば「流行に関係無い」というところでしょうか。武さんの映画は「流行」という、ある意味で「時間的」にも「地域的」にも「世代的」にも限定された表現と違って、様々な人達に伝わるものだと思います。だから今回のベネチアの賞も「やっぱりなあ」というのが僕の感想です。言葉で言うととってもくさいけど、
結局、その人の生きざまが表現を決める。
「センス」や「技巧」はある程度、勉強したり練習したりすると身につくものだけど、武映画はそのレベルでは語れないということでしょうか。「武映画がすごい!」と言って「武映画のカット割りや内容を研究」しても武映画のような感動を創れないと思うのもその辺です。自分自身を掘り下げる意外にないんですね。
どれだけ自分個人を掘り下げて行けるか。
スゴイ表現をしていると僕が思う人達は、意識的に、または無意識にそれを行っているような気がします。そういう意味では誰にでも出来ることだし、でもかなり難しいことでもあります。ついつい「自分の外側を見てしまう」からね(笑)。
ま、天才と呼ばれるような人達は(武さんは一種の天才だと思う)それを無意識に努力無く行えてしまうでしょう(または武さんの言葉を借りると「やらされて」しまう)。
映画に愛された男。
「映画を愛する監督は星の数ほどいるけど、映画に愛された監督は数えるほどしかいない」
これは北野監督に対して、評論家の蓮見重彦さんが言った言葉です。僕なんかも「映画を撮りたい」なんて思っていたこともあるけど、武さんの映画を見ると「あ。こんな人がいるなら俺は撮る必要がないな」なんて思っちゃいますね。
ホントに「撮るべくして撮ってる」からね。
で、北野武一般論でなく今回の「HANA-BI」ですが、相変わら凄いんだけど「言わぬが花」の武映画に参っていた僕としては唯一「HANA-BI」では「もっとこうした方が・・・」と思う所がないわけではなかった(ま、それを差し引いてもスゴイ映画だけど)。とにかく今回の映画の武と岸本加世子の夫婦が素晴らしかった。会話もなく無表情に過ぎ行く平凡なカットの中に立ち表れるお互いの感情が画面からひしひしと伝わってくる。そして今までの武映画が、その「沈黙」の中で「とてつもない孤独」と「絶望」を匂わせていたのと違い、
今回は武さんが今まで最も表面に出したくなかったと思われる「柔らかな愛情」がにじみ出る。

これも武さんの現在の人生とリンクしているもので、一種のドキュメンタリーとも言えるかも知れない。で、唯一「惜しかったな」と僕自身が思ったのが、ラストだけに語る岸本加世子の台詞(このラストだけっつうのはめっちゃいい!)はちょっと長いぞ(笑)!他の映画なら短すぎると言われそうだが(笑)、こと武映画では、もっと短く、一言「ありがとう」でも充分伝わった。それだけでもう俺は涙でびしょ濡れさ(笑)。周りのお客さん達は、いっせいに鼻をすすりはじめましたけど(笑)。 いやあ、なにはともあれ今これだけの映画はなかなか見れませんよ。
「HANA-BI」(1998年・バンダイビジュアル&オフィス北野)
脚本&監督&編集:北野武
制作:森昌行、音楽:久石譲、撮影:山本英夫、照明:高屋斎
出演:北野武、岸本加世子、大杉連、寺島進、白竜、渡辺哲、他。
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