
【review・11】

マルタイの女
(本当にカッコイイ男って?)
(97.10.26)
伊丹さん。それでもまだあなたは大丈夫(笑)
「それでも」と書いたのは、すでに伊丹サンは「芸術としての映画」を完全に捨てているからだ(これ褒めてます)。そして捨てているのも意識的に違いないからだ。伊丹映画における「アート的な匂い」は「お葬式」「タンポポ」「マルサの女」までだろうか?そこまでは伊丹サンの「映画的記憶&知識&センス」が見られたように思う。
もともと伊丹さんってインテリ(良い意味で)だし、映画的な知識やセンスは理解ある人だと思う。
それは「ヒッチコック」であったり「ヌーベルバーグ」であったり様々だが、カットのテンポや構図の作り方が、脚本よりも「映画的な表現」に重きを置いて作られていたような気がする。
伊丹さんが登場するまで外国映画には当たり前の「真にエスプリの効いたコメディムービー」が日本に無かったせいかもしれない。
今までの日本映画におけるコメディは、とても「情緒的」で「湿って」っていた。松竹「寅さん」シリーズはその最もたる映画であろう。それが悪いわけではなかったが、それだけとうことが、特に「日本的情緒」からずれはじめていた若い世代には見放されていたのだ。
その昔「クレージーキャッツ」 というとんでもない怪物的コメディ映画があったが、
例外的に「日本的情緒」から逃れていても、この映画の持つ面白さが現代まで受け継がれなかったのは「クレージー」の魅力が植木等を初めとする「演者の魅力」と「その時代が持っていた特有のパワー」に頼っていたからだ。
伊丹作品の魅力のほとんどが演出と脚本によっている。
僕も大好きなハリウッド黄金時代のコメディ大家「ビリー・ワイルダー」の面白さを日本的土壌で実現した最初の人が伊丹さんではなかったかと思う。今は伊丹さん系列と言っては本人に失礼かもしれないが、
周防正行監督が、それを更に充実させている(周防さんも映画的インテリの部分を持っていながらあえて大衆娯楽にしぼっているところが面白い)。
伊丹さんはインテリを捨て、90年代における「今の大衆の情緒」を表し始めた。
「ミンボーの女」からであったろうか。「クールでエスプリの効いた社会的視点」よりも「クールでありながら具体的に今の日本人の感情的部分を表し」始めた。ちなみに僕は「ミンボーの女」で弱いホテル社員が、ついに立ち上がってヤクザにどうどうと対応するシーンで不覚にも涙してしまった。僕自身の個人的感情と重なり合ったのはモチロンだろうけど、とてもクールとは言えない感情の露出したシーンであったと思う。「弱いものが自分で立ち上がって誇りを取り戻す」っていうのに僕弱いんです。でも決して「湿っぽく」はないんだよね。そこが伊丹さんの「今の捉え方」。
「マルタイの女」は西村雅彦がべリーグー。
ホントにこういう男性像って今は無くなりつつあるよね。
いや、いるのかもしれないけど目立たない。大体「目立つ」ことを主張しないのがこの手の男達だからだ。
「生真面目。実直。勤勉。質素。努力家。流行には疎い。表情には表さないが人情家。純朴。照れ屋。」
こんな男達は「ポパイ」で特集されることもないし、原宿でショップ開いてカリスマになったりしないし、澁谷でレコード買いまくってDJ目指したりしないし、ロンゲでチェーンを付けまくりコギャルとセンター街の歩道にも座らない。マックでデザイナー目指してスタジオヴォイスに載ろうなんてのも思わない。クラブになんか行ったりしないよこの手の男達。ディクショナリーにも載らない。だから目立たない。
サブ・カルチャーから最も遠い男。
最近、僕が他のクラブDJよりもかなりリスペクトしていた人物の内面を垣間見たことがあった。その人物は音楽的にもビジュアル的にも「カッコイイ」し、雑誌インタビュー等でもかなり深いポリシーを持った言葉を吐いていた人物だ。ところがその内面に触れた時、こう思った。
「うーん。かっこよくない」
まあ誰しも完璧な人間はいないし、その人物が今まで行ってきたことはやはり尊敬に値するし「音楽」は素晴らしいので、今は逆に「人間臭い」とは思っているが。
男のカッコ良さは、その人物が「何をしているか」ではない。「どのようにやっているか」だ。
「マルタイ」の西村氏のカッコ良さは「誠実さ」である。ちょっと短気で一途なだけに、どなりちらすこともあるが、悪いと思えば平謝りすることをいとわない。そしてそれはポーズではなく「本当にすまない」と思えばこそ平謝りするのだ。
勿論、サブカルといわれるものに関係する人でも真に「自分にも他人にも誠実」な人間はいるし、僕はそういう人物と出逢ったこともあるし、今でも尊敬している。
業界は関係無い。DJだろうがアーチストであろうが、刑事だろうが、泥棒だろうが、フリーターであろうが、バスの運転手であろうが、ビルの清掃をやっていようが、政治家であろうが、ホームレスであろうが、関係無い。
「誠実」と「気骨」を持った人間は「自分のやっていることに奢らない」し、本当の人間の魅力を間違えない。
「マルタイ」の西村氏が演ずる刑事はそんな男で、僕が今、最もカッコイイと思う男である。
ちなみに津川雅彦演ずる中年の不倫男は、また別の意味でカッコイイが、これは映画で確認されたい。しかしながらこれもキーワードは「誠実」です。
「マルタイの女」(1997年・伊丹プロダクション)
脚本&監督:伊丹十三
出演:宮本信子、西村雅彦、村田雄浩、名古屋章、伊集院光、高橋和也、津川雅彦、江守徹他
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