【つれづれ俺なるままに】3(97.7.8)

「横尾忠則さんとの半年間」


つれづれ俺なるままに。

約半年間、僕は尊敬する横尾忠則画伯との交流がありました。理由は衛星放送パーフェクTVのMONDO21というチャンネルで彼の長期ドキュメントを僕が制作したからです。詳しい番組案内は、上の横尾さんの顔写真をクリックしてください。


今だからやっと「この番組やって良かった」と言える。
何の気無しに「横尾さんの番組を創りたいなあ」と横尾事務所に連絡したのが去年の夏ごろ。MONDO21でニューエイジやニューサイエンスの番組(それまでに「J.C.リリィ博士」や「エクトン(彼は宇宙の非物質存在で、チャネリングによってのインタビュー)」などを創っていた)の企画を立てているうちに「やっぱり横尾さんに会ってみたいなあ」と思い立ち、最初は30分のインタビュー構成。天使や宇宙人との交信などのインタビュー項目をあげていて「かなりエキセントリックな横尾さん」を焦点にしていた。ところが・・・・。
「企画の内容は忘れて、横尾の個展を中心にドキュメントしてみませんか?」
との事務所からの連絡。個展は半年後の予定。これは長期に渡る横尾取材になりそうだ。当初の企画とは違うが、憧れの人物を半年間も追えるのは幸運だと思い、企画を立て直し、打ち合わせに横尾事務所に赴く。そしてそこには・・・・
横尾忠則が座っていた・・・。
(笑)会いに行ったのだから当たり前だが、実は黒澤明の次くらいに日本人の中で僕が尊敬する人だったので「本物がいる!」という妙な気分ではあった。だが思ったよりは緊張しなかったようにも思う。ところで僕は、作品よりも彼の著作(主に日記)が大好きで、やはり横尾さんが人生の節目に様々な人物に出逢うところが大好きだ。三島由紀夫さんに始まりジョン・レノンや寺山修司。細野晴臣さんの場合は細野さんの方からいきなり尋ねていってしまったそうだ。僕が今こうして横尾さんに会えたのもある種の因縁なのだろうか?そして僕がなにより気になっていたのが、横尾さんが交信している宇宙存在や天使だった。僕は中学生の時から禅に興味を持ち、それが精神世界への扉を叩くことになるのだが、そのころから横尾さんの発言が気になって仕方がなかったのである。常識を越えた発言だが、何か真実が含まれていると思えた。横尾さんとの交流の中で、そんな「超常的な」出来事への期待や「自分の霊的レベルがあがるのではないか」などという、今にして思えば随分と「いやらしい」(エゴイスティックな)考えを持っていたことは事実だ。「どんな番組にしたいか?」等とは考えてもいなかったのである。
撮影が始まると「おかしな倦怠感」が僕を襲い始めた・・・。
とても変な気分だった。撮影していても「楽しくない」のである。横尾さんの素顔や日常は、いたって「普通」である。そして「自然」だ。「自然」というのは「自分自身」に対して。いきなり「UFO」の話しをし始めるわけでもないし、奇行を始めるわけでもない。ましてや僕のカメラや僕の存在を気にするわけでもない。まあ、たまに他の人達との何げない話しの中にフッと宇宙人の話しが入ってくるのだが、面白いことに僕が「これは!」と思う話しをしてるときにカメラを向けると、横尾さんはすぐ「別の話」を始めてしまうのである。まるで僕の意識を見透かしているかのように。かといって、改めて横尾さんに「最近、宇宙人との交信はどうですか?」等と聞く気にはならなかった。その質問の裏に隠されている僕の動機自体がとても不純なもののような気がしたからだ。僕の下衆な期待は裏切られたような気持ちになった。そして自分が横尾さんの側にいる意味が無くなってしまったように感じられ始めたのである。
横尾さんは強烈な鏡だった・・・・。
今にして思えば、本当に横尾さんは僕にとっての鏡であった。僕はいつも自分の外に「精神世界」を求め、自分の評価を「外側」に求めた。常に「他人に期待」していたのである。その究極の他人が僕にとっては横尾さんだった。その横尾さんに対して「期待」が砕かれたような気分になった(横尾さん本人は全く知らないことだったでしょうけど僕の心の中では、そんな葛藤が進行していたのです)。
結局、僕自身が何を撮りたいのか?
そんな命題にぶつかりながら、でも答えも出ないまま撮影は進行していき、ついに編集の段階にいたった。「もう、つまんないものになってもいいや。俺、才能ないんだし」そんな気分にもなっていた。ある意味で「無心」となって100時間近く撮り溜めたテープを繋ぎ始める。考えなどまとまるはずもない。フッと浮かんだ何げない編集アイデアからまとめ始める。思えば一番撮影して面白かったのが「横尾さんの絵が野外を移動している」シーンだった。それはごく普通の景色に中に、通常美術館でしか見られない大きなキャンバスに描かれた横尾さん宇宙的な絵画が混ざっていく瞬間だ。考えてみれば「通俗と異界との融合」が横尾さんのテーマでもある。理屈はともかく巨大なキャンバスが横尾さんのアトリエから兵庫の美術館に運ばれて行くシーンは単純に撮影していて面白かったのである。
カメラを覗きながら僕の頭の中には「ボレロ」の音楽が鳴り響いていた。
「ボレロ」のCDをADの宮地君に買ってきてもらい、その音楽に会わせて絵を繋いでいく。その場面が完成すると、後は自然と完成していった。番組全体としての完成度は今いち解らなかったが、その部分は自分なりに面白がれた。そして・・・
横尾さんに編集を見てもらった・・・・
最初から「ノーコンセプトで創る」ということで横尾さんもおっしゃっていたのだが、さすがに「あまりのダラダラした編集」にあきれたのだろう。「棟方くん、何が撮りたかったのかをもっとハッキリさせるべきっだった」と一言。あまりにも自分で思っていたことを「そのまま」言われてしまって僕は何も返す言葉もなかった。「コンセプトに縛られるのもいけないけど、ある程度のコンセプトは必要だよ」横尾さんに、そんな番組創りの基本を言われてしまって恥ずかしくてたまらなかった。ただ例の「野外を移動する横尾絵画+ボレロ」は横尾さんも気に入って貰えた。「これは、こう撮ろうと思わなくちゃ撮れないカットだよね」。自分が唯一気に入っていたシーンを横尾さんも面白がってくれたことが救いとなり、また編集作業の直しに入る。数回の編集の直しを終え、遂に完成した。最後の試写を終えて横尾さんは拍手をしてくれた。「面白かったよ、棟方くん」。
僕はある種の達成感を得ていた。
実は後日談として、僕が「このままじゃ番組の花がない」という意味で「横尾人脈インタビュー」として「藤井フミヤ氏」と「細野晴臣さん」のインタビューを僕が勝手に行ったのであるが、そのことが横尾さんの逆鱗に触れた。
「もう、放送中止!!」
(笑)いやあ、今にして思えばちょっとある部分笑ってしまうのだが、事務所のお話によると横尾さんの怒りは相当なものだったらしい。僕はこの件ではとても反省している。横尾さんの怒りの理由として、一つは「僕の知らないところで知人のインタビューをされると借りを作ってしまうし、相手にも失礼になる」。もう一つは「音楽関係の人間ばかりインタビューするのはダメ。バランスが悪い」。このため急遽、横尾さんの個展を古くから行っている南天子画廊の青木さんにインタビューを御願いして「美術界からの横尾絵画」についてのお話を頂いた。「フミヤ氏」等のインタビューを入れた理由として「一応、若者向けのチャンネルなので・・・」ということを横尾さんには話したのだが、
「媚びたらだめだよ。媚びない方が最終的には認めてくれるよ」
この言葉は、取材中、他の若いデザイナーの人にも忠告していた。「媚びないこと。自分がいいと思ったことは、大きな美術館の意見でも跳ね返す。そうした態度で続けていると最終的には向こうから認めてくれるんだよ」横尾さんのこうした言葉は、何も「自分に篭もってしまう」という意味ではない。横尾さん自身「芸術は自分自身のものであるけど、大衆に届かなかったら意味がない」とおっしゃっている。そして
横尾さんはその通りの人生を歩んできた。
最終的には番組を気に入ってくれた横尾さんは「僕の鎌倉の個展で番組を上映しよう」と言ってくれて、もう開期は少なかったが、鎌倉の県立近代美術館のご協力で、7/6まで開催していた「横尾忠則・私への帰還」の個展会場にて番組は上映されたのである。現場に僕も行ってみたのだが、会場に訪れた多くの人達が、時には真剣に、時には笑いながら、番組を見ていたのがとても嬉しかった。映画館で自分の作品の反響を楽しむ映画監督の気分とはこんなものだろうか。規模はかなり違うけど。ここまで来て、僕はようやっと横尾さんと出逢って得たものを確認し始めた。
「モノを創る」あるいは「表現する」ということについて。
もう僕の中では、いわゆる「精神世界」における横尾さんや「不思議な出逢い」を起こす横尾さんというイメージは消え去り、「自分に忠実に表現を行うアーチスト横尾忠則」という一人の当たり前の人間(この当たり前を行えている人は現在何人いるだろう?)が見えてきた。「自分が心の中から創りたいものを誠実に創る」またはこう言い換えてもいい。「自分の心の中から生きたい人生を誠実に生きる」。精神世界でいう「スピリチュアル」とは正にこのことだ。なにも「天使」や「宇宙人」と交信することに意味があるのではない。「天使」や「宇宙人」の伝えたいことが「そのこと」なのだ。当たり前のことだった。
この当たり前のことを、僕はこれからどう生かそう?
これが、横尾さんに僕が出逢い、これから向かっていくところである。今に至って、僕は横尾さんに出逢えて本当に良かったと思っている。ほんとうにありがとうございました。また様々なアドバイスをくれ、落ち込んでいる僕を励ましていただいた横尾事務所の武井さんにも大変感謝しています。
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